TVMLにおける購買意欲の調査

B3では「TVMLにおける購買意欲の調査」をテーマに研究を行いました。

はじめに

テレビショッピング番組は,その魅力的なプレゼンテーションと効果的な商品紹介により,消費者の購買意欲に大きな影響を与えることが知られている1.これらの番組は,視聴者に製品の特徴や利点を伝え,購入へと導く重要な役割を担っている.本研究では,NHK放送技術研究所によって開発されたTVML(TV program Making Language)2を用いてテレビショッピング番組を模倣し,アバターと声質が視聴者の購買意欲にどのような影響を与えるかを調査した.

実装

TVMLは,テレビ番組の制作を効率化するための言語であり,ユーザーが最小限の情報を入力するだけで自動的にCG番組を生成することができる技術である.TVMLを用いた本実験では,視聴者の購買意欲に影響を与える要素として,異なる特徴を持つアバターと声質を用意した.具体的には,アバターに関しては「ほぼアニメ調(Bob,図1左)」,「少し人間らしい(Justin,図1中央)」,「ほぼ人間(news_caster,図1右)」の3種類である.また,声質に関しては「高い声」と「低い声」の2種類である.これらのアバターと声質の組み合わせを用いて,実際のテレビショッピング動画を模倣した.

図1 実装にあたって用意したアバター

今回の模倣テレビショッピング動画のモデルとして選んだのは,「ジャパネットたかた」が販売したシャープの4K液晶テレビ50V型アクオス(4T-C50BH1)のテレビショッピング動画3である.このテレビショッピング動画は,2020年1月に放送されたもので,視聴者に商品の特徴や利点を効果的に伝えるプレゼンテーションが特徴的である.この動画を基に,TVMLを用いて同様の内容を再現することで,アバターと声質が視聴者の購買意欲にどのように影響するかを検証した.

実験

実験では,参加者に実際のテレビショッピング動画と模倣したテレビショッピング動画の視聴及びそれぞれの関連するアンケート回答をランダムな順序で行ってもらった.つまり,約半数の参加者は,実動画を先に視聴し実動画に関するアンケートに答え,その後で模倣動画を視聴して模倣動画に関するアンケートに答える流れであった.もう半数の参加者はこの順序が逆であった.この手法により,アバターと声質が購買意欲にどのような影響を与えるかを検証した.具体的な実験条件は表1に示す.

項目説明
参加者の属性男女合計27名
(18-24歳: 24名,55歳以上: 3名)
視聴順序実動画と模倣動画の視聴順序をランダムに割り当て
評価方法動画視聴後,Google Formsによるアンケート回答
使用デバイス参加者各自のスマートフォン,タブレット,PC等
評価尺度7点リッカート尺度
アンケート項目実動画と模倣動画:説得力,価値伝達,満足度
模倣動画:アバターの外見の魅力,声の好み,声の説得力
表1 実験条件

結果と考察

評価結果を図2に示す.説得力・価値伝達・満足度の評価は,共に実動画が模倣動画よりも高いスコアを示した.模倣動画の価値伝達と満足度に着目すると,中央値はほぼ中間のスコアに位置していることがわかった.全体として,実動画に比べて模倣動画の評価は低いものの,模倣動画でも一定の説得力と価値伝達があることが確認できた.

図2 各動画の評価

図3は,参加者の評価を平均した数値に基づいて,模倣動画の各要素の平均スコアを示したグラフである.外見の魅力度に着目すると,人間に近いアバターになるほど高い魅力を持つと認識されていることがわかる.これは,アバターの外見が人間に近くなることで,ショッピング番組としての違和感が緩和されたのだと考察できる.また,「ほぼアニメ調・高い声」の組み合わせは,話し方の満足度で顕著に高いスコアを記録していることが明らかである.この結果から,「高い声」がショッピング番組において重要要素の1つであることがわかる.一方で,「少し人間らしい・低い声」の組み合わせは全般的に低評価であり,特に「低い声」が視聴者に不快感を与えた可能性が考察される.これにより,アバターの外見と声質が,視聴者の購入意欲を高める要素であることがわかった.

図3 模倣動画の評価

おわりに

本研究では,TVMLを用いて模倣したテレビショッピング番組が視聴者の購買意欲に与える影響を評価し,アバターの外見と声質が視聴者の購買意欲にどのような影響を与えるかを調査した.結果として,実動画が模倣動画に比べて全体的に高い評価を得た一方で,模倣動画も一定の説得力・満足度と価値の伝達が認められた. 人間の外見に近いアバターは視聴者に好評であり,アバターの声の好みと説得力に価値が見出された.しかし,「少し人間らしい・低い声」のアバターは,全カテゴリーで最も低い評価を受けた.高い声の方が視聴者には好評であり,購買意欲がさらに増す事がわかった.この研究から,TVMLを用いたショッピング番組制作において,アバターと声質の選択の重要性がわかった.

また,TVMLを用いて模倣したテレビショッピング番組の完成度は7段階評価で4.45という結果を得た.模倣動画の完成度としては,比較的高い数値を得られたが,参加者から「商品を売ろうとしている熱量ではなかった」,「テレビショッピングは、生の人間が優位な分野だと思った。」,「声に感情がこもっていないので説得力を感じないです」というような意見もあった.TVMLで模倣番組を実装する際に,使用するアバターや声質の種類について,更に検討する必要があるだろう.

文献

  1. 綱田百合香: “TVショッピングにおける説得方法の日米比較”, 金沢大学経済学会学生論集, 24, pp.89-102, (2005-3-15) ↩︎
  2. M. Hayashi, S. Inoue, M. Douke, N. Hamaguchi, H. Kaneko, S. Bachelder, M. Nakajima: “T2V: New Technology of Converting Text to CG Animation” , ITE Transactions on Media Technology and Applications, Vol.2, No.1, pp.74-82 (2014) ↩︎
  3. tvcm62, “ジャパネットたかた●シャープ・4K液晶テレビ 50V型 アクオス(2020年1月)”,YouTube, 2020-6-13, https://youtu.be/miffcHd5jY4, (参照2023-1-17) ↩︎